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帯広の夜

Last Modified : Sat, January 06 22:02:44 2018 RSS Feed

2002-03-26 / 帯広の夜

昨年の帯広出張で、お酒を飲んだ店のママが自殺したと聞いた。借金を苦にして。独身だった。

彼女の店には、取引先の担当者に連れられて行った。まぁ、接待という堅苦しいものでもなく、ちょっと飲みに行きましょうかというノリだった。僕は、帯広市の繁華街を知らなかったし、彼に任せて店に連れて行ってもらった。彼の、すすきのに行く回数は、僕をはるかに凌いでいたので、安心して任せた。

店に入ると、僕たちはまるですすきのにいるかのような気分になった。いつもの店でお酒を飲んでいる。そんな感じだ。若い女の子が一人と、僕と同じくらいの女性が一人、そしてママがいた。若い女の子は僕たちの席についた。お酒を僕らにふるまいながら、先日、札幌に買い物にでかけたことを話した。札幌に住んでいる僕に合わせてくれたのだろうけど、女の子のファッション事情については、全く無知だったし、僕は聞き役にまわった。ミニスカートを買ったことを、彼女はとても楽しそうに話した。帯広市に住んだことはないけれど、彼女にとって札幌への買い物は楽しいものであったようだった。彼女は、すぐに酔い、僕らもスケベな話なんかしながら、バーボンを空けた。

若い彼女がダウンしてしまうと、ママが僕の隣にやってきた。彼女は、30 代半ばの女性だった。彼女は、僕のひざに当たるようにすぐ隣に座った。彼女のぬくもりは、僕のふとももに伝わった。「○○ちゃんを、あんまりいじめないで」

陽気になった僕らに、ママは冗談っぽく言った。それほどまでに、彼女は僕らのペースでお酒を飲み、ノックダウンしていたのだ。ママに言われて、僕らも笑った。ママは、いつもお客さんに聞いているように、僕に札幌から来たのはいつなのか、仕事は何をしているのか、歳はいくつなのかを聞いた。僕は、音楽関係で、コンサートホールの照明の担当をしているなんて、適当なことを言った。酒を飲んでいるから、(勿論、相手もそうである)その場の話にそんなに突っ込んだりはしない。

一通り、お酒を飲んで夜中の 3 時になってしまったので、帰ることにした。さすがに、明日も仕事だから体も辛い。お会計をする時に、ママは「また、来てね」と言った。「ああ、勿論来るよ」僕も、答えた。しかし、しばらくは、帯広市に来ることはなさそうだった。

もう、あの店もなくなっているだろうし、ママはもうこの世にはいない。僕が、帯広市に出張に行っても彼女には会えない。彼女が、僕のすぐ隣に座って、温かい体温を僕のふとももに伝えることもない。僕らが、つぶしてしまった若い彼女も、悲しんだだろうし、常連さん達は、店の前で立ちすくんだだろう。

なんだか、悔しい気がした。彼女は、死を選ぶべきじゃなかったんだ。

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