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焦り

Last Modified : Sat, January 06 22:02:56 2018 RSS Feed

2001-08-09 / 焦り

その日、宮川正樹は急いでいた。交際している前田マミを空港まで送らなくてはならない。飛行機は最終便。これを逃したらもう後はない。宮川の仕事が長引き空港まではかなりのスピードで車を走らせることになる。マミは、先ほどからフロントパネルのデジタル時計を食い入るように見つめていた。そして、外の景色を確認し、またデジタル時計を見た。これを 10 分前から繰り返していた。車が高速道路に入ると、アクセルをいっぱいまで踏み込み加速した。スピードメータが 100 km を軽く超えた。

「間に合いそうなの?」

マミは不安そうに宮川に聞く。宮川は前を見つめたまま答えた。

「わからない。できるだけのことはやってみる」

スピードメータは、150 km を指している。マミの隣に見える走行車線の車が次々と後ろに下がっていく。いや、追い抜いているのだ。夜間の走行はヘッドライトだけが頼りだが、前方のライトアップされた空間は、このスピードでは全く意味をなさない。トンネルが見えてきた。走行車線は混雑しているため、追い越し斜線をひたすら 160 km 前後で走行する。さすがの宮川も、彼女を乗せて 180 km で走行する気にはなれなかった。

トンネルを抜けると、前方に複数の人影がある。人影?

宮川は、高速道路上で人間の姿を見ている事実を認識し、思考回路を作動させることができずにいた。

「ひゃ!」

マミのその声に、宮川はようやく事実を確認し、右足をアクセルからブレーキに移し思い切り踏み込んだ。タイヤが悲鳴をあげながら車は急減速する。マミは目をふさぎ声も出せずにいた。宮川は人影を見つめながら、停まれるかどうか脳を振り絞って考えるが、どう楽観しても無理であった。走行車線には、車が列をなして走っている。走行車線に車を逃すことは死を意味する。頼む停まってくれ!宮川は力の限りで、右足を踏み込んだ。

宮川は、引き攣る右足の感覚を覚えながら車の中で目を覚ました。夢だ。夢だったんだ。左の胸ポケットからタバコを取り出し火を点けた。ひどい汗をかいていた。額の汗を右手でぬぐうと、煙をゆっくり吐き出した。シートには、ひどく嫌な匂いのする汗が染み込んでいた。ふと助手席に目をやると、マミが眠っているのか体を斜めにしながら、座っていた。

ここは、どこなんだ?

宮川は震える右手でヘッドライトを点けた。

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