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儚いという字は人の夢と書く
Last Modified : Sat, January 06 22:02:45 2018
2002-02-25 / 儚いという字は人の夢と書く
僕たち、3 人兄弟が子供の頃。大体の子供たちがそうであったように、秘密基地を作ろうと 3 人で自宅の近くに適当な殉所を探した。そして数箇所「秘密基地」は見つかった。ここは、大人たちや親に見つからない僕たちの聖地だった。ファミコンもない時代だったから、みんな外で遊んでいたのだ。プラスティックのバットにビニールのボール。池で見つけた「かえるの卵」なんかをバケツに入れたりして、その秘密基地に隠した。僕たち兄弟だけの知る場所。
僕たちはその秘密基地(と言っても、駐車場の一角の子供の背丈で隠れるほどの草むらだった)を綺麗にしようとゴミ袋を自宅から盗んできて、秘密基地の周りの「空き缶」を拾って歩いた。社会奉仕やボランティアなんて言葉は勿論知らない頃である。大人が、飲み終えて捨てた空き缶は、それこそ大きな袋いっぱいになるのに、時間はかからなかった。僕たちは、秘密基地を「単純に」綺麗にしたかったのだ。そして、舗装もされていないその駐車場の空き缶を拾うので、服や顔を真っ黒になった僕たちはその空き缶の入ったゴミ袋を重そうに抱えて、スーパーマーケットの空き缶捨てに入れた。その満杯になった様子を見て、僕たちは満足だった。そして、秘密基地に走って帰る。秘密基地は、草むらにダンボールを敷いただけのものだった。僕たち 3 人は、そのダンボールと草の匂いの秘密基地に寝転がって曇った空を見上げた。僕たちの場所。
自宅へ棒きれなんかを振り回し遊びながら帰る。大人たちは、汚らしい格好をした僕たちを見て怪訝な顔をした。泥だらけの少年たちは、大人から見たらどんな風に見えただろう。でも、僕たちは、秘密基地を持って満足だったし、それを綺麗にしたのでなおさらである。
ある日、僕たちの「秘密基地」は、大人たちにことごとく破壊されていた。ガレージと塀の隙間に作った第一基地は、プラスティックのバットとビニールのボールが完全に撤去され、かえるの卵が入ったバケツは、蛇口のある洗車場の所定の位置に戻っていた。そして、駐車場の草むらの第二基地は、段ボールが消え去り、少しばかり窪んでいることで、以前「秘密基地」があったことを物語っていた。僕たち 3 人は、その場に立ち尽くした。そして、「秘密基地」のことは、もう語ることはなかった。
誰に、僕たちの場所を侵略する権利があったのだろう。僕たちが隠れたり、横になって空を見上げたりするだけだった「秘密基地」。
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