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修学旅行
Last Modified : Sat, January 06 22:02:44 2018
2002-03-02 / 修学旅行
場所は、観光バス。田舎の中学校の修学旅行。僕は、中学生で学級委員で、ジャージ姿で、どう考えてもモテそうにない風体だった。東京ディズニーランドや上野動物園などの定番コースを巡回して、そろそろ修学旅行も終わろうとした車内で、バスガイドさんは、告白した。
「私は、今日の乗務で最後のお仕事になります。最後の仕事に皆さんに会えたことを大変嬉しく思います。皆さん、ありがとう。」
修学旅行という、祭りに騒いでいた僕たちは、一瞬で静まる。彼女は、涙を流しながらこの仕事に対しての別れを述べていた。僕は、座席に座りながら、バスガイドという仕事について考えてみた。毎日、同じような観光地を巡り、お客に卑猥な言葉をかけられたり、触られたりしながらも、毎日、いろんなお客に会う。そして、綺麗な声で、皆が初めて見るはずの「その場所」を解説する。あるいは、それは繰り返しの仕事なのかもしれない。目の前にいる人々の顔は毎回変わっても、自分自身のしている仕事は、同じことである。しかし、人の仕事で、繰り返しのない仕事なんてあるのだろうか。彼女も勿論、毎日やかましい中学生やら、高校生をバスに乗せ、同じ場所に行き、一所懸命覚えた観光地の説明をした。おそらく、やかましい高校生やら、中学生の中の、たった一つの中学校の偶然のクラスでしかない僕たちに、彼女は「ありがとう」と言った。僕たちは、特別な存在ではなかった。彼女は、仕事をしながら、これが最後の乗務なんだと、考えながら仕事をこなしていたかもしれない。
視線を、前に戻すと彼女は、もはや何も語ることもできずに、泣いていた。バスは、静かに都会の中を走る。いつも通り。
彼女との別れ際、僕たちは握手をして、「頑張ってください」「ありがとう」なんて声をかけてバスから降りた。僕は、彼女の中で「この仕事」の幕引きが、少しでもよかったらいいな。と思った。
彼女は、今頃何をしているんだろう。僕みたいに、最後の乗務のことを思い出したりするのだろうか。
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