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陰陽座 「金剛九尾」レビュー

Last Modified : Sat, January 06 22:01:36 2018 RSS Feed

2009-12-31 / 陰陽座 「金剛九尾」レビュー

陰陽座の2009年9月9日発売( 9 並びアルバム名と通算枚数にかけてる!!)の通算9枚目のアルバム「金剛九尾」が発売されてしばらく経った。iPod や Mac の前でほどほど聴いてライヴも見に行ったことだし、毎度のことながら本アルバムもレビューしてみようかと思う。

本作は、基本的に、前作「魑魅魍魎」(ちみもうりょう)と同じ音作りのアルバムだ。エンジニア陣もほぼ共通で、この音がリーダの瞬火の好みの音であるのだろう。確かにダイナミックな音で、透明感もある音だ。初期よりも断然高音質だし、心地いい。ただ音がよければいいのかって話なのか。勿論、何はともあれ楽曲が問題だ。もちろん陰陽座は期待を裏切らないので安心して欲しい。

さて、各楽曲を聴いていこう。今回の作品は全曲、作詞:瞬火・作曲:瞬火。

1. 貘(ばく)

「貘」は、中国由来の夢を食べると言われる架空の生物。あるいは妖怪。楽曲は、神秘的な効果音から入るクリーンなトーンやシンセサイザが透明感を出すミドルテンポの曲。最近の陰陽座らしく、1曲目はアルバムの全体を想起させるテーマを持った曲を持ってくることが多い。この曲も、クリアな感じと侘びしさや、寂しさ(ダークな感じではない)を感じさせる。サビもキャッチーなのだけれど、メジャーな底抜けの明るい曲ではない。ライヴなどでは、もちろん 1 曲目に演奏していたが、どうにも縦ノリではないので、観客もどうしていいかよくわからない感じでノっていた。

2. 蒼き独眼(あおきどくがん)

「独眼」は、勿論独眼竜正宗。伊達政宗のこと。イントロからしてかっこいい。こういう硬質な感じのギターのリフはいいよね。この曲はパチンコ CR 戦国乱舞 蒼き独眼のテーマ曲になっている。歌謡曲的な意味でも、陰陽座的なメタルの意味でもキャッチーな曲。先行発売されたシングル曲でもある。彼は、本当にシングル曲はシングル曲らしい曲を書く。さらに、パチンコで採用されたので、パチンコ台で演奏されることを考えて、うまく収まるように作ったという瞬火らしい完璧主義な一面が見える曲でもある。

3. 十六夜の雨(いざよいのあめ)

打って変わって恋愛をテーマにした曲。耳がヘビメタ慣れしてると、こういうイントロに「おお、スピードチューンキター!!1!!」となる病気に罹患しているのだが、普通のテンポの曲だったりする。

4. 小袖の手(こそでのて)

「小袖の手」は、妖怪の名。僕は、歌詞を読んで、この世に未練のある女性が好いた男性を想うあまり、遺品である小袖から手を伸ばすほどの状況というような解釈をしているが、どうなんだろうか。しっとりとした黒猫の歌声で切ない恋心を歌う。

5. 孔雀忍法帖(くざくにんぽうちょう)

一転、毎度収録されている忍法帖シリーズ。今回もノリのよい作品で、本アルバムでの最速チューンとなっている。終始テンポを落とすことなく突っ走ります。ギターも気持ちよい音ですね。

6. 挽歌(ばんか)

「挽歌」は、そのまま挽歌でしょう。この曲は、陰陽座としては新境地だとは思うが、これが大成功しているとしか言いようがない、まさに名曲である。泣きのメロディでスタンダードなロックのコード進行。メタルかと言われたら、いやいやこれはロックのしかも王道だけれど、このような曲が陰陽座から出てきたことが、いい意味での驚きではあった。この曲は、間違いなく10年前の結成当時では発表されることがなかっただろうし、陰陽座としての活動が、10年の年月を経て、さらに瞬火自身もいい意味で歳を取ったからこそ、この曲を書いて発表したのではないかなと思う。

7. 相剋(そうこく)

相剋と次の慟哭は、DS のゲーム「犬神家の一族」のテーマソング。そして、先行発売されたシングル曲。販売元に陰陽座ファンがおり強いオファーがあったようで、彼らもそれに応えたといったところ。犬神家の一族と言えば、横溝正史原作の金田一耕助が主人公の探偵小説・映画・ドラマ作品。僕は不勉強で映画しか観たことがないが、ゲームの印象には合っているのかしら。こちらは激しい感じの歌い方になっているので、おそらくゲームの冒頭部なんかに使われてるのかな。

8. 慟哭(どうこく)

7 と同じくシングル曲。イントロの音などは、昭和の作品である「犬神家の一族」をうまく表現できているんじゃないかなあと個人的には思っている曲。バラードであり、ゲームではエンディングなどに使われたのかも知れない。どうもこの曲は、ベースがやたらと耳に入ってきてしまい、元ベーシストであったりすることもあり、自分的には指でベースを弾く様子が頭から離れないわけです。

9. 組曲「九尾」~玉藻前(くみきょく「きゅうび」~たまものまえ)

これより 3 曲で構成された組曲。「九尾」は有名な妖怪。狐の姿で 9 本の尻尾を持つ妖怪。このアルバムはとにかく 9 に拘っているのだ。玉藻前は、絶世の美女とされ、鳥羽上皇に仕え、寵愛され契りを結ぶまで至ったが、妖怪であることが発覚して…。というお話である。黒猫が終始歌うことからわかるように、玉藻前視点で愛を求める様を描いているなかなか艶っぽい歌である。

10.組曲「九尾」~照魔鏡(くみきょく「きゅうび」~しょうまきょう)

一転、暗くておどろおどろしい展開へ。ヘビーでスローなテンポに。「照魔鏡」とは、悪魔の本性を映し出す力のある鏡。ドラゴンクエストでいうところのラーの鏡。組曲の中盤というのは、陰陽座の非常にらしさが出るので、毎度愉しみなのだけれど、今回も展開を次から次へと変えて来て期待を裏切らない。変拍子ありギターソロもあり、男女ヴォーカルの絡みあり。9分を超える楽曲だけれど、飽きさせない。

11.組曲「九尾」~殺生石(くみきょく「きゅうび」~せっしょうせき)

殺生石は、玉藻前の正体「九尾の狐」が死んだ後に、石となったというもの。近づく生き物を殺すことから名付けられた。この曲は、ギターのリフが非常にかっこいい。曲もクライマックスへ向けて、スピードアップ。最後に、しっとり黒猫が歌うパートはあるが、目まぐるしくかつ激しい展開、リフ、やや難解なテンポ・拍子(まあ某バンドほどではないけれどもさ)、合いの手の声を上げつつ、このアルバムの最高温度を記録する。

12.喰らいあう

毎度毎度の陰陽座の最後の曲は、ライブで盛り上がりそうな曲。サビの喰らいあうと cry out とかけてるのか。

このアルバムは、全体に脳天気な曲はなく、なんとも言えない侘びしい寂しさのようなものが漂う、非常に和を感じさせるテイストとなっている。なんと言っても組曲「九尾」は、瞬火が構想10年とかなんとか言ってたと思うのだけれど、非常に完成度が高い。キャッチーさばかりではない。音は、最近の陰陽座らしくヘヴィネスだけではなくモダンな音作りである。モダンというのは、語弊があるかも知れないけれど、古くさいメタルではない音であり、気持ちよく聴ける音ということだ。 10 年という一区切りで彼らが提示した楽曲と音は、間違いなく過去の陰陽座の清算でもあり、新しい一歩であると強く感じることができるアルバムである。

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