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東京出張 1 日目
Last Modified : Sat, January 06 22:02:40 2018
2002-05-09 / 東京出張 1 日目
午後の仕事を終えて、Prelude に乗り千歳空港に向かう。札幌は気温 23 度。晴れ。冬用のスーツだと少し暑く感じる。Prelude はいつものように、軽快に加速して僕を空港へと導いた。道央道はまばらに車が走っている。その合間を約 150km/h で駆け抜ける。誰も僕を咎める人はいない。
千歳空港に着いた僕は、まず喉を潤すことにする。自動販売機で購入できる喉の潤い。汗を背中に感じながら、空港の人々を眺めた。彼らは楽しそうにこれからの旅について語っていた。北海道に観光に来たのか、北海道の人がこれから本州方面に観光に行くのか。いづれにしても彼らはとても楽しそうだった。
もう何度も通った搭乗口に僕は手続きをするために歩を進めた。警備員が、毎日しているであろうセリフを口にする。
「ナイフなどの危険物はお持ちですか?」「手荷物をこちらに置いてください」「航空券を拝見します」
手続きを終え、搭乗口付近のベンチに腰を下ろす。既に仕事を終えたサラリーマン達は、プラスティックのコップに入ったビールを飲んでいる。黄色い液体が、なんだか不味そうに見えた。彼らに罪はない。僕がどこか疲れているだけだ。しかし、サラリーマンはそのビールを美味そうに、喉に注ぎ込んでいた。そして、僕も他人から見れば観光客ではなく、サラリーマンの一人なのだ。スーツケースを持った仕事に向かうサラリーマン。
飛行機に搭乗すると、空気がなんだか乾燥している感覚を覚える。空は青くて、遠くで同じ航空会社の飛行機が西日に当たって輝いている。文明の利器。飛行機は世界を狭くし、旅行という感覚をも麻痺させる。僕は今札幌にいる。でも 1 時間 15 分で羽田空港に降り立つことになる。なんだか、不自然に感じるが、それが事実である。人の造りしもの。
僕の席は、飛行機を正面から見たら左側の翼の根元に位置する場所であった。翼は、これからの飛行に無言で備えていた。氷点下 50 度にもなる高度でも彼は、無言で私たちを支えるのだ。僕はその翼を見ながら眠ることにした。すると、後方の席の子供が「タオルがない」と泣き叫んだ。おかげで僕は、一睡もできないことになった。しょうがない、諦めよう。その娘は、タオルが欲しいんだ。僕を寝かせないように泣き叫んでいるわけじゃない。
羽田空港より、東京モノレールに乗り浜松町へ向かい、浜松町から山手線で新宿へ。新宿に着くまでの間に、Prelude の仲間のヤスくんが、東京に就職試験で来ていることを携帯電話のメールで知る。大塚にいるらしい彼を呼び新宿で落ち合うことに。新宿駅東口のスターバックスコーヒーの前で待ち合わせ。程なく彼は現れる。カジュアルな赤と白のチェック柄のシャツにジーパン。僕は、グレーのスーツ。もしかしたらお兄さんに見えるかも知れない。まずは、重い荷物を置きたいので宿である、新宿プリンスホテルにチェックインする。新宿プリンスホテルは、西武線新宿駅の真上に位置するホテルで、交通の便はいい。しかし、23 階の部屋の眼下には歌舞伎町が見える。23 階からだと歌舞伎町も小さな明るいひとつの街に見えるけれど、欲望や欺瞞や快楽が渦巻いている街である。客引きの声が遠くに聞こえる。
部屋に荷物を置いて、ロビーを抜け入り口を出るとヤスくんは待っていた。ちょうどタバコをくわえたところだった。僕と二人で、並んで歩く。就職試験に合格したとの報告をしてくれた。僕は背中を叩き「お疲れさん、おめでとう」と言う。彼はなんだか照れたように笑った。笑った顔は、大学生である彼の少年らしさが残った素敵な笑顔だった。
歌舞伎町に入り、食事をするべく店を探す。肉を食わせる店があったので、二人で決めて入ってみることにする。客引きがうるさく僕に話しかける。札幌のすすきのにも客引きはいるが、新宿歌舞伎町の数はすすきのの比ではない。そしてしつこい。彼らは仕事としての客引きをしているのだから、何も言うことはないけど、あまりしつこくても客はついていかないと思う。
店内は落ち着いた雰囲気で、黒い壁に木目調のテーブルだった。二人でハンバーグステーキを食べる。学生の財布も心配しているのだ。ヤスくんは、就職のこと、自宅のネットワークのこと、僕の自宅サーバのことなんかを話した。僕は、そんな話をしながら就職を決めたあの若い自分を思った。僕は貧乏で、新宿にもこれなかった。彼は姉を頼って来たという。僕は長男で弟たちの見本たるべき存在だった。しかし、見本になれていなかったかもしれない。でも、僕は貧乏なりにも学校に行って彼女と遊んで、友達と遊んで、働いた。そして、その時間はとても楽しかった。
食事を終えると、彼を新宿駅東口まで送った。「ジュンさんが居なくなったら、僕迷子になっちゃいますよ」若者はそう言った。うん、わかった君を新宿駅東口まで送ればいいんだね。時々手を引きながら、彼を客引きから遠ざけて帰りを急いだ。眠らない新宿。僕たちは、単なる偶然でこの空の下で、会った。
ホテルの部屋に戻ると、間接照明を多用した高級感溢れる作りに違和感を覚えながらも、僕はガウンに着替えた。今日一日いろんなことがあった。そして、今日も僕は一人だ。ホテルの空席状況からなのか、サービスなのかツインの部屋をシングルの料金であてがってくれたおかげで、僕の部屋はとても広かった。そして静かだった。もともとテレビを見ない性分だから、シャワーを浴びて寝ることにした。浴室に入ると思いのほか広いので、せっかくだからバスにお湯を張り、ゆっくりつかることにする。湯が張れるまで、歌舞伎町の歩く人々を見ながらタバコを吸った。乾燥したホテルの空調はなんだか、タバコを不味くさせたが、これからのゆったりした時間を思えば僕は、新宿の空も優しく思えた。
シャワーを浴び、友達に携帯電話でメールするうち、僕は眠りに落ちた。
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