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Lunatic Moon 9
Last Modified : Sat, January 06 22:02:39 2018
2002-06-14 / Lunatic Moon 9
僕が目を覚ましたのは、ベッドサイドの時計で午前 10 時 30 分のことだった。陽は高く昇り、開け放たれた遮光カーテンの間から既に昼間の光が射し込んでいた。爽やかな朝は、小鳥のさえずりと弱い太陽の光で清清しくあるべきだけれど、現実はそうはいかない。小鳥たちは、もう今日の空に食べ物やら、恋するべき相手を探しに行ったのだ。そして、僕たちは、夜更かしをし過ぎて、ベッドで遅すぎる朝を迎えたのだ。
彼女はまだすやすやと眠っていた。僕の胸にいたはずの彼女は、自分の枕に戻り子供のように両腕を放り投げて寝ていた。僕は、静かに立ち上がり洗面台に向かった。洗面台の使われていないハブラシを取り出して、歯を磨いた。使い捨てのハブラシは使い心地が悪く、洗面台から出る湯は熱すぎた。顔を洗い流し、異常なまでに乾燥しているタオルで顔を拭いた。洗面鏡で自分の顔を見ると、なんだか普段の自分に見えない。何かが違うのだ。でも、僕が髭を触ると彼も髭に触れた。同時に。
部屋に戻ると彼女は目を覚ましていた。横になったまま天井を眺めていた。天井は白い壁紙で、模様は何もない。彼女は天井を見ているのではなく、天井と自分の間の空間を見ているのだ。
「目を覚ましたんだね」
「うん。ねぇ、帰りましょう」
「そうだね。まずは体を起こしてからだね」
「うん」彼女は、気だるそうに体を起こした。
僕は、テレビのスイッチをつけると、自分のスーツ(あるいは昨夜、僕が着ていた方のスーツ)を着た。そして、騒音にしか思えないテレビをリモコンで切った。バチッっと音がしたところで、彼女がバスローブのまま現れる。彼女に、自分のスーツ(あるいは昨夜、彼女が着ていた方のスーツ)を渡す。彼女はスーツを受け取ると、恥らうこともなく下着になり、僕のスーツを着た。相変わらずスーツは大きめで、彼女の足元でスーツを引きずることになった。
「さぁ、行こうか」
出口に設置された精算機に札を飲ませ勘定を済ませ、車に乗った。車の時計は午前 11 時 16 分。
「さぁ、僕は明日からまた仕事だ。君はどうするんだい? 」
「そうね。貴方の家に連れて行って」
「家に来るのは構わないけれど、それからどうするんだい? 」
「わかってるよ。貴方にはもうこれ以上甘えられないよ。」
僕は、車を走らせ自分の家に急いだ。車のテープは相変わらず「家路」が流れていく。確かに家に帰るところだけれど、「家路」の旋律は余りにも外の青空と、眩しい太陽には似合わなかった。
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