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bakery 4
Last Modified : Sat, January 06 22:02:36 2018
2002-07-28 / bakery 4
次の日も僕は、パン屋で仕事をすませて、帰宅した。夏の夜の空気は、昼の熱気を残していてなんだかまだ少し蒸していた。空は、まだ少し明るい。
家についてから僕は、自分の部屋の汚さにうんざりした。玄関口で荷物を渡すにしても、この部屋が見えたら彼女だってうんざりするだろう。僕は、よく聴いていた CD やら MD やらを、まとめてケースに入れていく。洗濯をしなければならない衣服も洗濯物入れに入れて、ベッドの上の布団も整えた。床の大部分が見えてきたところで、僕は掃除機を使ってフローリングの床を綺麗にした。女性が来るからって掃除なんてなんだか可笑しいな、と思いながら片付けていた。
午後 8 時を少し回ったところで、呼び鈴のボタンが押された。
出てみると、彼女がいた。いつもいるはずの男の子がいない。夜遅くに子供を連れてくるのは彼女の判断で見送ったのかもしれない。レジ越しではない、僕のアパートの玄関にいる彼女はとても小さく感じた。そして、なんだか嬉しそうに見えた。少しだけ秘密の外出をした子供のように。
「わざわざこんなところまですみません」
「いいのよ。ガラクタを押し付けに来たんだからね」
「いえいえ、そんなことはないですよ」
「車をどこに停めていいのかわからなかったから少し遠くに置いてきたの。歩ける?」
「はい。行きます」
僕は、彼女と初めて肩を並べて歩いた。さすがに陽は落ちて、すこし吹いている風が心地よい。先ほどの掃除でかいた汗も少しひいた気がした。そして、彼女は夏でも相変わらず黒い服を着ていた。
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