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神戸長崎大阪の旅 01

Last Modified : Sat, January 06 22:02:33 2018 RSS Feed

2002-10-05 / 神戸長崎大阪の旅 01

携帯電話のアラームの音で目が覚めると、僕は身体を起こす。ぼやっとした眠りの塊のようなものが、頭の半分近くを占めている。眠い。僕は、大きなスーツケースの中身を確認する。今回は、4日間の旅だ。1泊の出張ではないので、必然的に荷物の量が多くなってしまう。その半分しか覚醒していない頭脳で、いくぶん長い荷物リストと実際に入っている中身を確認する。

重いそのスーツケースを持ち上げ、Prelude のトランクに詰め込む。大きなその荷物が入るには少し小さいトランクだけれど、なんとか放り込む。ウェストポーチには財布と、携帯電話とデジタルカメラと、PHILIP MORRIS が入っている。忘れ物はないはずだ。

今朝の札幌の空は、幾分肌寒くて、そして薄く曇っている。問題ない。僕はこれから神戸に行くのだ。札幌に零下の寒波が襲ったとしても、僕は神戸にいる。

空港の駐車場に Prelude を駐車すると、また重い荷物を取り出す。団体受付カウンターで受付を済ませ、全日空 134 便 10:00 発 関西国際空港行 に搭乗した。

関係会社の集まりではあるものの、今日初めて会う人々ばかりで、会話も少ない。僕は、預けた荷物の中に「海辺のカフカ」をそのまま入れたままであったことを思い出す。仕方ない。まだ残っている眠ろうとする脳の意見を尊重することにした。空調の音と、時折流れる機内アナウンスの中で、僕は短い睡眠を貪った。

到着した関西国際空港で、飛行機の出口から降り立った瞬間に猛烈な熱気が襲ってくる。10度台の札幌から28度の気温を示しているその場所は、「君たちは、これからこの暑さの中で過ごすことになるんだ」と語っていた。そう。僕が望む望まないに関わらず、その気温が変わることはないのだ。

空港からすぐにバスに乗り換えて、高速に乗る。大阪の郊外に位置する空港から、間もなく大阪市内の港が見えてくる。大阪港は大きな港であるが、高速から見下ろした場所には人の姿が見えず、なんとなく寂しい印象を受ける。バスは、加速減速を繰り返しながら兵庫県に向かう。晴れ渡ったその空と、日に照らされた工場や倉庫を眺めている。高速は湾岸線であり、常に海沿いに走るのだ。

14:00 。神戸市内中心部の三ノ宮駅からほとんど離れない場所にバスは停車し、中の乗客を排出する。バスから降り立ち大きな荷物を降ろす僕たちを通行している市民が、バスの名札を見て、僕らが北海道から来た人々だと知ると、顔と荷物を見比べるように眺める。それは、好奇の視線でもなく、軽蔑でも尊敬でもなかった。そこにある人を見るだけだった。「この人たちは、北海道から来たんだ」それ以上でも、それ以下でもない。

トアロードを少し上り神戸北野ホテルへ到着する。アンティークでロマンティックなホテルだ。古い西洋の作りであり、異人館がある北野の町並みに溶け込ませるように考えたのであろう。そして、それは成功しているようだった。

添乗員が、ホテルのロビーで今後が自由時間であるということを知らせる。彼女の声は、シックな作りのそのホテルのロビーには、いささか大きすぎて、通りがいいように感じたけれど、多分それは職業上仕方のないことなのかもしれない。ツアーの客は、僕らのように若い人々ばかりではない。老人たちの引率の場合もあるだろう。職務上、時間の遅れや勝手な行動は致命傷だ。だから、彼女は大きな声を張り上げて、僕らに集合時間を説明した。

そして、僕はホテルを出た。既にいくつかのグループができつつあったし、僕もそのグループの中に加わることもできたけれど、あまり気が進まなかった。どうせ、仕事の話もでるだろうし、自分のしたいことさえも、グループの許可が必要だった。やはり、僕は一人で行動することにした。僕はひたすら神戸を自分だけで見物するのだ。

異人館に関しては、あまり興味がないので、いくつか観覧したところで、僕は神戸の街を歩くことにした。歩いている地面を見ると、僕の影がスニーカにくっついていた。日差しが暑い。僕の背中には容赦なく太陽が降り注ぎ、アスファルトからも僕に照り返す熱。少しだけ汗で湿った T シャツが、背中でくっついている。

まず、僕は三ノ宮駅に向かった。坂を下るようにして、歩を進め買い物をしている若者たちの間を縫って、僕はひたすら歩いた。軽く足の裏に鈍い痛みがある以外は、問題なかった。右の足が前に出ている時には、左の足で地面を蹴り、右の足を地面に着けると、左の足を前に出すようにした。それの繰り返し。

三ノ宮駅に到着すると、元町駅方面に歩くことにした。途中で喫煙所を見つけると、タバコに火をつけて町並みを眺めた。札幌のような江戸時代以降に、図面を引いて計画的に碁盤目状の整然とした町並みになれている僕は、雑多に広がる道路や、大きさの揃っていない建物や、新旧混ざった店舗を見ると、やはり新鮮である。あるいは、楽しい。

サラリーマンは、携帯電話で取引先に連絡し、学生は明日の小テストについてかたり、若い男女は、今夜のディナーについて協議していた。そんな中に、タバコを吸いながら、人々を眺めている僕がいる。彼らにとっては、当たり前の街。でも、僕にとっては新しい街。神戸。

一度、元町駅までつくと進路を変え、南京町を抜けてメリケンパークと呼ばれる地域に着く。おおよそ 40 分位歩いている。都会のビルの谷間を抜け、大きく空と海が見える。オリエンタルホテルの横には、レストランクルーズ船が停泊している。写真でしか見たことがないタワーに上ることにする。広場では、中央区民まつりが催されていた。子供たちが、アニメのグッズを獲得するために、ビンゴゲームをしている。そんな喧騒を避けるように、僕は展望台に上った。

神戸の街は、山と海が近くて、高い位置に登るとおおよそ全景を見ることができた。写真を何枚か撮影し、また地上に戻る。そして、中央区民祭りを遠くで眺めた。祭りには全く興味のない男女がベンチの上で、時折キスをした。僕は、何も見ていない振りをして、彼らの前を通り過ぎる。彼らの世界にとっては、僕は全く関係のない異物なのだ。

最も、海岸に近い広場では、愛を語らう多くの男女が、海に向かっている。海から吹く涼しい風を感じたくて、僕も手すりに手をかけて、神戸港の沖合いを見る。先ほどのクルーズ船が、出航した。目の前で、方向転換をしている。汽笛が大きく響く。その音があまりに大きくて、僕は少しだけ肩をすくめる。

海の匂いと、風を浴びるのにも飽きると、ホテルに戻ることにする。少し寄り道しよう。途中、旧居留地を抜けてみる。大丸の前で、黒いコンバーチブルのポルシェが駐車禁止区域で駐車していた。幌はオープンにしている。僕は、ポルシェという車に関してあまりいい感情を持っていない。あくまで僕の経験ではあるけれども、多くのポルシェのドライバは、恐ろしいほどのスピードで一般道を走行し、周りの走行速度を無視して車線変更を繰り返す。そして、一般市民とは違うんだという無言の主張が鼻につく目で他車を眺める。肌が合わない。

「はいはい。僕は国産車ですよ。随分高い車に乗ってますね。僕ならマンションを購入しますけどね。そんな金があるのなら。」

しかし、この駐車違反ポルシェは、幌を開けた状態で、Boa を大音量で聴いていた。僕は、苦笑した。大方の周りの人々もおおよそ僕と同じようだった。

僕の寄り道は、カフェで完結する。何も考えずにカフェに入る。Ripple というカフェ。白人女性のウェイトレスにアイスコーヒーを注文する。出てきたグラスの氷をストローで混ぜながら、今日一日を思い返した。飛行機で大阪に入り、バスで神戸に到着した。2時間半くらい神戸の街を歩いた。何も目的もない。ただ歩いて、人々を眺めて、町並みを眺めて、海を眺めた。こんな日常からかけ離れた日もいいだろう。隣の席の男女が、会話もなく向かい合っている。そして、これからどこに行くか簡潔に相談し、伝票を男性が持ちレジに向かった。

ホテルに戻って、夕食までの間に、僕は「海辺のカフカ」を読むことにした。これまで横たわったこともないようなやわらかさのベッドに横になり、身体を休めながら。

ディナーは、フランス料理のコースだった。キャビアやら、蛙やらを食べる。僕は、何度か書いているけれども、味覚に関して少々問題を持っている。「おいしい」という感情が普通の人よりも、鈍感なのだ。だから、フランス料理のコースで、キャビアとフォアグラを食べようが、マクドナルドで、80円のハンバーガを詰め込んでも僕の中では、あまり変わりないのだ。仕方ない。ところで、ワインを少々飲みすぎた。酔いが心地よく僕を揺らす。

食事が済むと、夜景を見に行こうという話になった。僕は、夜景を見ることは、マクドナルドのハンバーガと同じように好きでも嫌いでもないけれど、せっかくあんなに歩いた神戸だから、見てみることにした。タクシーに乗り、ビーナスブリッジに向かう。若い女性達は、グループになり夜景を眺めている。そして、彼女達と仲良くなりたい若い男性陣が、なんとかきっかけを作って、話しかける。僕は、そんな彼らを眺めてから夜景を一人で眺めた。写真を数枚撮影してみる。恐らく光の点がいくつか写っているだけだろう。問題ない。気に入らなければ消去すればいいのだ。

夜景に飽きたみんなが、下に行って遊ぼうという話になっているらしい。ひとりでタクシーで帰るのも初日からあまりにもなんだから、一緒に行くことにする。mosaic と呼ばれる遊ぶスペースにタクシーで向かう。

観覧車のライトアップの写真を何枚か撮影して、昼間見た神戸港の夜の姿を眺める。観覧車に乗ろうという話になったけれど、僕は下で待機することにした。「高いところは苦手で」と言い訳をして。せっかく男女同数くらいいるのだけれど、話の流れで、女性グループと男性グループと別々に乗っている。観覧車は、男女で乗るのがいいんじゃないのだろうかと当たり前のことを思いながら、メリーゴーランドの前のベンチで待つ。そうそううまくいかないものさ。

観覧車から降り立って、ホテルに帰ることになり、タクシーにまた便乗する。ホテルの部屋で飲みましょうと、若い男性に誘われたけれど、(勿論男性女性に声をかけていたのだけれど)僕は普段より歩いていたし、小説も少し読みたかったし「寝ることにするよ」と断った。

ホテルに戻り、ストイックなまでに高級なバスルームで身体を洗い流し、髪を洗い流した。場所は変われど、いつもと同じ順番で。そして、初めての神戸を、初めてのベッドで眠る。

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