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Christmas

僕は12 月 24 日のその夜、君に会いに出かけた。いくらクリスマスイブでも、晴れ渡った夜空でロマンティックなんてことはなくて、札幌はいつもの吹雪だった。雪は全ての人々に容赦なく降り注ぎ肩を狭めさせた。吐く息は白く、街はジングルベルに合わせるように陽気な空気。楽しそうにケーキを選ぶ母親と小さな娘、時計を眺めながら家路を急ぐサラリーマン、家族より恋人を選んだ赤いコートの女の子と、黒いロングコートの男の子。僕はそんな人々を眺めながら彼女を待った。僕は学生で貧乏で 、救いがあるのなら君がいてくれることだけだった。そして、いつものように流行らない服で、君を待った。タバコをポケットから出して火を点ける。鼻も喉も凍りそうな空気と一緒に煙が肺に入ってくる。そして吐き出した煙もまた雪のような白さだ。大通り公園は、ホワイトイルミネーションでライトアップされて、白い雪に反射して夜の中で際立って明るい。ツリーは意味もなく高く空に向かってそびえ立ち、次から次へと落ちてくる雪を見守っていた。

君は新調した真っ赤な温かそうなコートで現れた。

「待った?ごめんね」

「いや、今来たばかりだよ」どっかで聞いたセリフだな。

二人は、白い雪の中で手を繋ぎ他愛もない話をしながら札幌の街を歩いた。彼女の手を自分のコートのポケットに一緒に押し込む。零下の空は、人々を引き寄せるのだ。君は肩を僕の腕にぶつけながら、雪を踏みしめて歩いた。空から生まれてくる雪はすぐに降り積もり、彼女と僕に踏みつけられることになる。ミシミシと静かな音を立てて。二人で予約していたフライドチキンを買いに向かう。店は、家族連れやら恋人たちで混雑している。そう、僕たちもその中の「ただの二人組」なのだ。会計を済ませ店の外に出ると、箱の中から湯気が立ち昇る。ふと君の顔を見ると、うれしそうに微笑んでいた。僕もなんだかうれしくなり、二人でニコニコしながら手をまた繋いで歩き始める。

僕の家に着くと、そこは恐ろしいほど外の世界とはかけ離れた日常があった。テーブルに置かれたフライドチキンがなかったら「クリスマスイブ」とはとても思えない。君は簡単な食事を作り、フライドチキンとケーキを並べた。いよいよクリスマスらしくなった。

「おいしそうだね」僕が言う。

「うん。食べよう!」君が言う。

食事が済むと、ケーキにろうそくを立てて、部屋を暗くする。明かりが消えて君の顔が炎の色に浮かび上がる。部屋の隅に掛けられた真っ赤なコートだけは、赤く浮かび上がる。僕は、君の隣に座り、ろうそくを二人で眺めた。揺れながらろうを溶かしていく炎。二人は肩を寄せ合い、クリスマスイブのこの夜に共にすごせる喜びを分かちあった。炎のその中に。

二人はその後、別れることになる。こんな幸せな夜が二人に存在しても。別れは二人の幸せな瞬間を無にするのだ。

 

そして、二度と訪れないその瞬間を、忘れてしまう。

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