チビ
今朝、久しぶりに犬の夢を見た。子犬の夢だった。
今から20年以上も前、僕がまだ小さい頃、犬を飼っていた。パグという種類の大きくならない犬だ。名前はチビと言った。全国で三千匹位いそうな名前である。
チビは僕らの家族だった。僕達兄弟が、外で遊ぶ時はいつも一緒にチビを連れて行った。他愛もないかくれんぼやら、鬼ごっこやかけっこをするのに、チビは楽しく吠えながら遊んだ。家の近くには桜並木があり、僕ら兄弟三人とチビは木登りなんかして遊んだ。チビは利口な犬で、僕らが呼ぶとどんな遠くにいても楽しそうに駆け寄ってきた。
「チビ!こっちにおいで!」
弟達が、チビと競争しながら走っている。スカイラインとバイクに乗った近所の不良のお兄さんも、僕達と一緒に遊んでくれたりした。桜が咲くその河川敷で。
チビは、僕自身にとっても優しい犬だった。まだ幼い僕は、トイレに行く暗い階段が怖くてしかたなかった。昔の家は割と、外にトイレがあったのだ。でも、チビはそのトイレの前で、しっかりと僕を勇気付けてくれた。
「大丈夫。怖くなんかないよ。早く僕のところへおいでよ」チビは、僕をしっかり見守ってくれたのだ。
家族の一員のチビは、僕の保育園に初めて行く日に、泣いて母の手を離さなかったこと、初めてプールの中で目を開けることが出来た日、僕が、ピンクレディーの歌を弟と一緒に歌いストーブに手をぶつけてしまい、火傷して手に包帯を巻いてたこと、みんな黙って見ていた。
桜が落ちる頃のある日、保育園で楽しく遊んで自宅へ帰ると、母が泣いていた。
「チビがね、天国に逝っちゃったよ」
僕は、幼いながらも、もうチビと一緒にかけっこしたり、かくれんぼができないことがわかった。とても、寂しすぎてどうしていいのかわからなかった。父が仕事から戻ると、兄弟3人と両親で声をあげて泣いた。もう、チビはいない。どんなに大声で呼んでも、僕のところには、駆けてこないのだ。トイレも一人で行かなければいけない。チビがいなくなった残された家族は、その晩みんなで、泣いた。
チビにもう一度会いたい。抱きしめたい。もう一度子供に戻って、かけっこしたり、体を撫でてやりたい。
「チビ、僕はもうこんなに大きくなっちゃたんだ。君が、いなくなってからずいぶん経ったね。またみんなでかくれんぼしようよ」