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bakery 10
Last Modified : Sat, January 06 22:02:36 2018
2002-08-03 / bakery 10
二人で何度か会っていた時に、彼女は絵の話をした。
「ねぇ。マサキを描いたのよ。彼方をいつも想っていたから」
「本当? 今度見せてよ。メイ」
「嫌よ。恥ずかしいもの」
「なんだぁ。つまんないの」
僕はその話を思い出して、寝室でベッドを整えるメイに聞いた。
「ねぇ、前に話していた僕の絵を見せてよ」
「ええ。恥ずかしいから嫌よ」
彼女は、前と同じ言葉を繰り返した。
「いいじゃん、見せてよ」
「うん…」
彼女は、カラーボックスに入った、一冊のスケッチブックを取り出した。緑と黄色のスケッチブックの表紙。僕が高校の時に使ったスケッチブックと一緒だった。そして、彼女はあるページを開き僕に手渡した。
そこには、僕がいた。鉛筆で描かれた僕。パン屋さんにいるときと同じシャツを着て、エプロンをした僕。そして、随分実物よりよく描かれていた。
「かっこいいじゃん。うまいね」
僕は、自分が描かれた絵を初めて見たので、どう感想を述べていいかわからなかった。
「パン屋で、マサキを見てしっかり記憶に留めておいて少しずつ描いていったの。すごく彼方が好きだから描きたかったのよ」
「そう」
眺めてから、彼女にそのスケッチブックを返した。そして彼女は、もうひとつ絵を見せてくれた。
そこには、シャツのボタンを開き、胸が露わになった僕が描かれていた。少し恥ずかしそうにうつむいた僕だ。
「彼方のその胸を想像して描いたの。彼方は自分では気がついていないかもしれないけど、とてもセクシーなの。その絵を描きながら私は、彼方に抱かれたいとずっと想っていたの」
彼女は、そう言うと僕の胸に飛び込んできた。
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