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Lunatic Moon 1
Last Modified : Sat, January 06 22:02:40 2018
2002-06-06 / Lunatic Moon 1
僕は、峠道を車で走っていた。深夜 0 時。月が真っ白に光り輝いて空に浮かんでいる。あまりに綺麗なので、僕はパーキングに車を停めて、空を見上げた。白というより銀色に近い月で、少しだけ黒ずんだ部分が兎に見えた。いや、兎というより色白な婦人のシミに見えるかもしれない。そう思うとあまり綺麗な気がしなくなった。パーキングは、街路灯さえもなくて車は僕の車一台だった。ふと耳を澄まし、深夜の誰もいないパーキングで背伸びをする。
「…」
誰かいる気がする。人の気配。誰だ。車の方を見る。誰もいない。パーキングを見回す。ちょうどゴミ箱や空き缶入れのプラスティックの壊れた入れものの影に白いものが動いた気がした。人? 背中に汗が流れるのを感じる。汗は、音をたてて溢れ出て、幾筋かの汗がひとつになりこぼれ落ちた。白いものは、震えているように見えた。月の光しかないこの世界で、その白いものは一層白く僕の目の前で震えていた。
人だ。人の背中だ。髪が長いように見えるが、近づいて確認してみないとわからない。僕は、決心してその背中に近づくことにした。白いものは怯えながら震え続けていた。恐らく僕を攻撃したり危害を加えたりすることはなさそうな気がする。歩いて近づくと、彼女はふと、こちらを見た。
彼女は泣き疲れ、恐ろしいほどに目が腫れていた。18 か、19歳位か。顔は紅潮していた。かわいい子ではあるが、状況はかわいい女の子にはふさわしくはなかった。彼女は、また目をそらし、うつむいた。そして、彼女が裸だということに気がついた。裸でこんな真っ暗な場所に一人いた彼女。僕は想像した。恐らく、若い男に車にでも乗せられて、乱暴されてここに投げ捨てられたのだろう。
「大丈夫かい?」
「…」
「大丈夫かい?」もう一度聞いてみる。
「はい…」乾いた声だ。
はいと答えているものの、大丈夫な訳がない。
「よかったら僕の車に乗らないかい? 近くなら乗せて行ってあげるけど」
「いいんですか?」
「問題ないさ。僕も一人のドライブは淋しいし、助手席にレディーを乗せるのも気分は悪くない」
「うふっ」彼女は、一所懸命に微笑もうとするが、うまく微笑むことができなかった。
僕は、財布と携帯電話をスーツの上着から抜いて、ズボンのポケットに突っ込み、彼女に着せた。彼女は、まさに裸で、黒い皮靴以外何も身に着けていなかった。僕たちは一緒に車に向かう。そして、助手席のドアを開けてやると、彼女は車に先に乗り込んだ。この月夜に、裸で外にいる気分は恐ろしかったに違いなかった。車の中とはいえ、世界から隠れることができた彼女はなんだか、安心したように見えた。助手席に座った彼女が、微笑んだのを確認すると、僕は車の前を回り運転席に座った。
「さぁ、どちらにお連れしましょうか? お姫さま」
「うんとね。とりあえず向こうに行って、王子さま」
「かしこまりました、お姫さま」
僕らは、笑いながら発進した。彼女は、スーツを纏いながらも、少しだけ見える下半身を手で押さえて、座っている。車の中には、僕がいつも帰る時に流すテープが流れていた。ドボルザークの、「家路」だった。彼女は外の景色を眺めながら、頷くようにリズムをとった。ギアを 2速から 3速に入れたその時に、彼女は、こちらを向いた。僕の顔を見つめる。
「どうしたんだい? 僕の顔に、バカとでも書いてあるかい?」
「うん。」
「そうか。多分、じいやの奴が僕が寝ている間にでもいたずらをしたのかもしれないな」
「うふふ。面白い王子さまね。王子さま、あなたはなぜそんなに優しいの?」
「綺麗なお姫さまが、苦しんでいるのなら助けるのさ。白馬に乗って現れる」
「そう。」
彼女は、また僕を見ていた。僕は本当に顔に、バカと書いている気がして、顔をなぞってみる。勿論、ぬぐった手には何もついていなかった。
白い月は、相変わらず僕の向かう先の遥か頭上に浮かんでいた。遠くに見える湖上に、月が綺麗に映っていた。風のない湖面はまるで、鏡のように月を映し出した。その黒い湖面にある月が本当の月なのかもしれないとさえ思えた。
そうだ、今日仕事の帰りに貰ってきたクリーニングから戻ってきたスーツがリアシートにある。彼女に、まだビニールに包まれたスーツを渡した。彼女は、ビニールを几帳面に剥がし、ズボンと上着にわけた。そして、うまく腰を浮かしながら僕のスーツを身に着けた。黒い大きな上着は、彼女をより一層小さく見せた。
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いやーん from Web Café Weblog : 2007-07-31 01:46
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